【育休プチMBA勉強会5周年記念インタビュー】代表 国保 祥子さん
「育休プチMBA勉強会」は2019年7月で発足から5周年を迎えました。自身の育休中に自然発生的に始まったこの勉強会について、代表の国保さんに、これまで、そしてこれからについてお話を伺いました。
Q. 「育休プチMBA勉強会」5周年、おめでとうございます。5周年を迎えての率直な感想をお聞かせください。
2014年に友人の相談に応える形でなんとなくはじめた活動が、こんなに続くとは思いませんでした。これもひとえに経営面で支えてくれているワークシフト研究所や代表取締役の小早川さん、オペレーション面で支えてくれる歴代運営チーム128人、そしてこれまで育休プチMBAやワークシフトのプチMBAに参加してくださった7,100人超の皆さんのおかげです。ありがとうございます!
おそらく自分ひとりでやっていたら、1年も経たずに活動をやめていたと思うので、「組織ってすごいな」という気持ちです。
Q. この5年を振り返り、大変だったことは何ですか?
活動は始めるより続けるほうが難しいのですが、続ける上で課題や危機はたくさんありました。会社だとインセンティブが強いけど、この勉強会は営利目的ではないし、運営メンバーも自分も完全にボランティア。やめようと思えばいつでも辞められるんです。経営学的に言うと「貢献と誘因」のバランスを常に意識しています。関わってくれるメンバーの誘因はどこにあるのだろう、と。
振り返ると、活動を続ける上で出てきた課題は私自身の不十分な点に気づくきっかけであり、成長の機会でもありました。もし育プチをやっていなかったら今頃もっと未熟でつまらない人間でいただろうと思いますので、そのほうが怖いですね。
印象に残っているのは、やはり近い距離で仕事をしてきた運営チームのひとりひとりです。日本の女性というものがどれほど優秀かということを教えてもらいました。このような人材が「育児との両立が難しい」という理由で仕事を離れることは、社会的損失以外の何物でもないと思います。
Q. 育プチ発足から2019年の現在、育休者を取り巻く環境は変化してきていると思いますが、いかがですか?
社会環境や職場環境はかなり良いほうに変わってきたと感じています。2014年頃は、育児と両立しながら仕事を頑張りたいと思う女性は今よりレアな存在で、職場もどう扱っていいのかわからず戸惑っているという印象でしたが、今はもう少し当たり前の存在になってきました。ただ見慣れはしたものの「パフォーマンスを引き出すためにどういう管理をしたらいいのかわからない」という課題は多くの企業で引き続き残っていると感じます。
あとは、育休中に勉強しようと考える人も増えたなと感じます。2014年頃は赤ちゃん向けの講座しかなく、母親が「仕事の話」をするところはありませんでした。
Q. 企業が生き残るために、働き方も劇的に変わっていくのかもしれませんね。育休者を取り巻く家庭環境は変わってきていると思いますか?
子どもを産んでも働き続けることが当たり前になったことの影響は感じます。プラスの側面としては、出産イコール自分の可能性を諦めなくてはならないと考える人が減ったこと、夫と一緒に夫婦で育児をすることが当たり前だと考えたことが増えたこと、があります。マイナスの側面としては、「こどもを産んでも働き続けること」が当たり前になってきたわりには、母親が家事や育児に手をかけることがよいことであるといういわゆる性別役割意識のほうはあまり変わっていないということでしょうか。
この意識を持ち続けたまま「こどもを産んでも働き続けることは当たり前」になると、母親だけが家事に育児に仕事にと、大変になってしまいます。実際、うまく両立している人は男性や外部リソースを賢く活用しながら働いています。そういう女性の役割意識はもう少しアップデートされてほしいなと思います。
一方で、実は男性にも「自分が一生稼いで家庭を支えなくてはならない。仕事は辞められない」という重圧があるんですね。そんな中で育児家事をうまく分担するためには、女性にも「私も一緒に一生働くよ」という意思表示が必要だと思います。
Q. なるほど。分担を主張するのではなく、男性側の不安やプレッシャーに寄り添う必要がありそうですね。この勉強会にはこれまで2,800名が参加したとのこと。とても大きな数字だと思いますが、この勉強会が会社や社会に与える影響はどのようなものだと思いますか?
育休制度が普及した結果、出産を機に退職する人は減っています。つまり、就業を継続するということは制度によって実現しつつあります。次に企業が抱える課題は、継続のその先、つまり育休から復帰して、育児をしながら組織で活躍し続ける、キャリアアップをしていく人材をいかに増やしていくことです。育休中の人はさまざまな揺らぎを経験するため、キャリアの観点から躓きやすくなっていますし、小さな躓きが結果的にキャリアに大きなマイナス影響を与えることも少なくありません。社会全体でみると、出産を機に不安定な雇用形態になったり、能力に見合わない収入になったりする人はまだまだ多いのです。
育休プチMBAは、こうした意図せず、かつ個人にとっても企業にとっても不幸な躓きを回避する効果がありますので、結果的に幸せな両立生活を送れる人を増やすと自負しています。
Q. 国保さんは静岡県立大学准教授として学生の指導にあたられています。働き方改革が叫ばれる中で、若者たちの労働観は変化してきているのでしょうか?
育児に限らずプライベートとの両立への関心は高いので、その点に配慮しない企業はこの先ますます採用に苦労するだろうなと思います。これは仕事に対するやる気が低いわけではなく、会社人間の先輩たちが幸せそうに見えないということが影響していると感じますし、会社にそこまで期待をしていないとも言えます。一方で、これは裏返すと企業が個人のキャリアに責任を持ってくれていた時代だからこその結果でもあるので、これからの個人はキャリアを自分自身で責任をもって考えなければいけないと思いますし、そのためには生涯学び続ける、成長し続けるということが求められると思います。
また、出産後を不安視している若手の女性に対して「大丈夫だよ」というメッセージを発していきたいです。そのためには今、勉強会に参加している人たちに会社の中で良いモデルになってもらう必要があります。「こういう先輩が職場にいたら安心だろうな」という人を増やしたいですね。
Q. 今度、この勉強会がどのように発展して欲しいと考えますか?
短期的視点でいえば、企業負担で受講する人が増えてほしいです。これはすなわち、育休プチMBAでの学びが企業の求める能力開発にふさわしいものであるという経済界からの評価だと思っていますので。あとは妊娠中など、出産が視野に入り始めた人にも来てほしいですね。
長期的視点では、育休プチMBAが必要とされなくなるくらい、育児と仕事での活躍が当たり前になってほしい、“女性”活躍や“女性”管理職という言葉がなくなってほしいと願っています。この勉強会はそのような社会課題の解決のために存在しているので、その間は続けていきたいですね。
Q. 最後に、これから勉強会に参加される方々へメッセージをお願いします。
今の社会構造の中では、女性自身が働き方をしっかりと考えて選択をしていく必要があります。時短やパート、転職が本当に自分にとって良いのか、戦略的に考えてほしいと思います。期待することは、やはり復職後の活躍です。会社に戻ったら活躍してほしいし、昇進してほしい。組織の意思決定側にまわることで、次世代の道をより良いものに変えていってほしいと思っています。
個人としては、学び続けることでしか将来への不安は軽減できないと思っています。あなたが今不安なのは、成長していないからかもしれません。学び続ける、成長し続けることで不安とうまく付き合える人が増えるといいなと思いますし、私も一緒に学び続けたいです。
———インタビューを終えて
これまで半年間、運営チームとして国保さんとともに勉強会を開催してまいりました。国保さんは勉強会を通して、多くの育休者・復職者に上記のメッセージを届けることを主眼に取り組んでいらっしゃいます。研究者の枠を超えて、次世代の就業環境をより良いものにしようとする姿勢が一貫しており、その熱意に私たち運営メンバーは常に引き寄せられてきました。
5周年を迎えたこの勉強会ですが、「こどもを持ちながら働く」という理念が社会の隅々に浸透するまで、多くの方に学びと発見を提供する場であり続けるのだろうと心強く思っています。私たち運営メンバーもそれぞれの場所に復職しますが、そういった社会的責任を果たすほんの一助となれば幸いです。
国保さん、インタビューにご協力いただき、どうもありがとうございました。